アルポート症候群について

患者さんへ

アルポート症候群とはどんな病気でしょうか?

アルポート症候群は南アフリカ人のCecil Alport(セシル・アルポート)医師が1927年にBritish Medical Journal誌に家族性腎炎家系の詳細な報告を行ったことから、その病名が付けられました。ここでは、患者様およびその家族の方に向けたアルポート症候群の解説を記載いたします。

腎臓の役割

まず、腎臓の役割に関してご説明します。腎臓は腹部の真ん中に2つ存在します。血液中の過剰な水分や老廃物を尿中に出して、常に血液をきれいな状態に保つための臓器です。そのために、常に大量の血液が腎動脈と呼ばれる動脈を通って腎臓に流れ込みます(図1)。その後、血液は腎臓の中の糸球体と言われるまん丸の構造物に流れ込み、そこで血管の壁から尿を濾し出します(図2)。糸球体の中の血管の壁は、血液から尿のみをきれいに濾し出すために、非常にしっかりした構造をしてます。そうでないと、体に必要な血液中の蛋白や赤血球などの血球成分まで尿中に漏れ出してしまうからです。そのしっかりした構造を支えるのが糸球体基底膜と呼ばれる膜です(図3A)。アルポート症候群では、生まれつきの遺伝子の異常のために、この膜が作れず、尿中に蛋白や赤血球が漏出してしまい、腎臓病を発症します(図3B)。具体的には4型コラーゲンの一種を作る遺伝子に生まれつきの異常があるため、この糸球体基底膜をうまく作ることができない病気です。

図1 腎臓の位置と役割
腎臓の位置と役割の画像
図2 糸球体の構造
糸球体の構造の画像
図3 糸球体の中の血管

A 正常

B アルポート症候群

糸球体の中の血管について正常な血管とアルポート症候群の血管の比較画像

アルポート症候群に関して

アルポート症候群は遺伝性の病気で、1)腎臓病、2)難聴、3)目の病気を認めます。遺伝性腎疾患の中では多発性嚢胞腎という病気に次いで、2番目に多い病気です。ただし、難聴や眼の病気は発症しない患者さんもたくさんいます。遺伝の形式に従って3つのタイプに分類され、それぞれ重症度が異なります。一番患者さんが多いのが、X染色体連鎖型というタイプで、男性では女性よりも圧倒的に重症の症状を認めます。男性では平均30歳前後で腎不全へと進行し、透析や腎移植を必要とします。一方、女性では平均65歳前後で腎不全へと進行しますので、一生腎不全へと進行しない患者さんもいます。逆に、まれではありますが、女性におきましても20台から30台と若くして腎不全へ進行する患者さんもいます。アルポート症候群の患者さんは、4型コラーゲンを作る働きをする遺伝子に生まれつきの異常があるため、この4型コラーゲンを作ることができません。4型コラーゲンは、腎臓、耳における内耳、目でその構造を保つための重要な役割をしているため、4型コラーゲンを作れないアルポート症候群の患者さんでは、上で書いたように、腎臓病、難聴、目の病気などを認めるわけです。

腎臓においては、4型コラーゲンは先ほど説明した糸球体基底膜を作るための重要な成分です。図4Aは健常な方の糸球体基底膜です。このようなきれいな膜の構造を保ってます。ところが、アルポート症候群の患者さんでは、図4Bのように、糸球体基底膜がぼろぼろになってしまいます。そのため、若いときから尿中に血液や蛋白が混じり(図3B)、次第に腎不全へと進行します。

図4 糸球体基底膜(電子顕微鏡写真)

A 正常の糸球体基底膜

正常の糸球体基底膜の画像

B アルポート症候群の糸球体基底膜

アルポート症候群の糸球体基底膜の画像

アルポート症候群の症状

先に記載した通り、腎臓病、難聴、目の症状を認めます。腎臓病に関しましては3歳時検診や小学校の学校での検尿検査で尿潜血反応陽性(尿中への赤血球の漏出)で発見されることが多いです。病期の進行と共に尿蛋白も認め、X染色体連鎖型男性患者で平均30歳前後、女性患者で平均65歳前後、常染色体潜性(劣性)患者で平均20歳前後、常染色体顕性(優性)患者で平均70歳前後で腎不全へと進行し、透析または腎移植による治療が必要になります。難聴は、X染色体連鎖型男性患者と常染色体劣性患者で主に認めます。時に重症で補聴器を必要とすることがあります。眼に関しては、視力の著しい低下を伴うような症状はまれです。その理由は不明ですが、日本人のアルポート症候群患者さんでは欧米の患者さんに比較して眼の症状を発症する患者さんは非常にまれでることが知られております。

アルポート症候群の治療

遺伝子の異常に伴う病気ですので、根本的な治療法は存在しません。ただし、ACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬と呼ばれる薬剤は、元来血圧を下げるための薬剤ですが、腎保護作用に優れ、アルポート症候群の腎不全進行を遅らせることが可能です。X染色体連鎖型の男性患者さんでも、若年時から内服開始すると10年から20年も腎不全への進行を遅らせることが可能です。女性患者におきましても尿潜血に加え、尿蛋白まで認める場合はこれらの薬剤による治療開始が推奨されております。ですので、内服してもその効果はなかなか実感できないかもしれませんが、主治医の先生の指示に従い、しっかり内服することをお勧めします。

アルポート症候群と遺伝

アルポート症候群は遺伝子の異常で発症するため、ほとんどの遺伝形式のアルポート症候群は2分の1の確率でこどもに遺伝します。遺伝に関しましてはすべての病型で遺伝形式が異なりますので、主治医の先生に確認し、正しく理解してください。早期に診断し、早期に治療を開始することで、腎不全進行を遅らせることが可能ですので、家系内の患者さんは早く診断できるように配慮する必要があります。

おわりに

アルポート症候群に対して、ACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬はある程度の効果が期待できます。また、様々な新薬の開発も進んでますので、今後、さらに腎不全進行を遅らせることが可能となることが期待されております。より患者さんの生活の質が改善するように、私たちも研究を続けて参ります。また今回のアルポート症候群レジストリ研究により、さらにこの病気がどんな病気なのか、治療効果はどうなのかなどさらに明らかにすることができますので、是非とも研究に参加にご協力頂けましたら幸いです。お読みいただきありがとうございました。